平等という名の終わらない工事
街の広場には、いつも工事の柵が立っている。最初は段差をなくすためだった。通りやすくするためだった。人々はそれを歓迎した。ところが柵は消えない。工事は終わらない。理由を尋ねると、まだ整っていない場所があると言う。誰も反対できない。段差は確かにあるからだ。だが、いつ終わるのかは誰も知らない。平らにするという言葉は優しい。しかしその言葉が続くかぎり、工事は続く。
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- 平等、是正、制度、永続工事
広場の段差
街の中心には古い広場があった。石畳はところどころ盛り上がり、雨の日には小さな水たまりができた。歩きにくい場所もある。そこで市役所は工事を始めた。段差をなくし、誰でも歩きやすくするという説明だった。
住民たちはうなずいた。確かに不便だったからだ。石を削り、低い場所には新しい石を置く。職人たちは丁寧に広場を整えていった。
数日後、最初の場所はきれいに平らになった。だが工事の柵はまだ外れない。別の場所にも小さな凹みが見つかったという。そこも整えなければならない。
その説明ももっともだった。広場は広い。どこかに段差が残っているかもしれない。
やがて人々は、柵のある風景に慣れた。朝の散歩の途中で遠回りをする。夕方には職人が新しい石を運んでくる。工事は少しずつ進んでいるように見えた。
誰も不満を言わなかった。理由は簡単だった。段差は確かに存在していたからだ。
増える水平線
ところが奇妙なことが起き始めた。
ある日、職人がこう言った。平らにした場所の隣に、新しい高低差が見つかったのだと。石を削ったせいで、別の部分が目立つようになったという。
それは確かに事実だった。広場の石は一枚一枚が違う形をしている。ひとつを整えれば、別の石が浮いて見える。
そこでまた工事が始まった。
やがて人々は気づき始める。広場は少しずつ整っているが、柵は減らない。むしろ増えている。
理由を尋ねると、説明はいつも同じだった。まだ完全ではないから。もう少し整えれば、誰でも歩きやすくなるから。
その言葉は正しく聞こえる。だから反対は難しい。
ただし、ある事実だけははっきりしていた。
石の形がそろっていない限り、どこかに必ず高低が現れる。ひとつを削れば別の場所が目立つ。
つまり工事の理由は、広場そのものの形の中に含まれていた。
柵の内側
時間が経つにつれて、もう一つの変化が現れた。
工事に関わる人々が増えたのだ。石を運ぶ人、測る人、図面を書く人。彼らは広場の整備が続くほど忙しくなる。
広場が完全に平らになれば、彼らの仕事は終わる。だが広場は広く、石は無数にある。
そこで新しい測り方が生まれた。石の高さだけでなく、歩く人の歩幅、靴の底の厚さ、雨の日の滑り方。
測る項目が増えるほど、整える場所も増える。
柵の外を歩く人々は、ますます遠回りをするようになった。だが多くの人はそれを受け入れた。工事の目的は正しいからだ。
広場を歩きやすくする。誰もその願いを否定できない。
しかし工事が続くほど、もう一つの事実が静かに形を取る。
段差が完全に消えた瞬間、工事は理由を失う。だから段差はいつもどこかに残る。
永遠の工事
ある日、古い住民が言った。
「この広場は昔より歩きやすくなった。でも柵は昔より増えた」
それは奇妙な感想だった。だが間違ってはいなかった。
石畳は確かに整っている。だが工事も続いている。
広場を完全に平らにするという目標は、いつもあと少しのところにある。あと少し整えればいい。もう一箇所だけ直せばいい。
その「あと少し」が、毎年続いていく。
夕暮れになると職人たちは道具を片づけ、柵の扉を閉める。広場は静かになる。
しかし翌朝、また新しい測量が始まる。
石畳の上にはまだ小さな凹みが見つかる。
それは確かに凹みだった。だから工事は続く。
そして広場には、今日も柵が立っている。
時々見かける光景だ。遠回りは嫌いじゃないけど、延々と続く工事のために、朝の散歩の途中で遠回りをするのは 嫌だな。
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