給付の自販機
小さな町に自販機が置かれた。誰もが硬貨を入れ、飲み物を買う。ある日、機械は一部の人にだけクーポンを返すようになった。表向きは困った人を助けるためだという。だが機械は同時に購入の記録を取り、誰が何を買ったかを知るようになった。やがて町の習慣は変わり、硬貨は戻らず、機械の口座だけが増えていった。
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- 給付付き税額控除、逆進性、監視、還付事務
自販機の設置
町の広場に新しい自販機が置かれた。説明書にはこうある。困っている人には飲み物を返す、と。人々はそれを歓迎した。普段と同じように硬貨を入れ、ボタンを押す。機械は静かに動き、飲み物を出す。だが裏側には小さな口があり、そこから一部の人にだけクーポンが出る仕組みが組み込まれていた。説明書は親切だ。だが親切な言葉は、機械の内部で何が起きるかを語らない。誰がクーポンを受け取るかは、機械の設定次第だとだけ書かれている。
針の目のような条件
クーポンを得るためには、いくつかの小さな条件を満たさねばならない。紙に名前を書く、番号を登録する、時には窓口で証明を見せる。手続きは丁寧に説明されるが、実際には細かな穴が多い。手続きを完了できない人は、列から漏れる。列に残る人は、何度も同じ場所へ戻る。機械はその間に購入の記録を蓄積する。誰が何を買ったか、どの時間に買ったかが刻まれる。クーポンは一部に渡り、残りはただの記録となる。記録はやがて機械の設計者にとって価値を持つ。
静かな交換
町の会議で誰かが言う。これで困った人が助かる、と。別の者は答える。手続きがあるから不正は減る、と。だが誰も、機械が集めた記録が何を意味するかを詳しくは問わない。記録は口座のように積み上がり、機械の管理者はそれを基に次の設計を決める。やがて機械は、返す量を調整するための理由を示す。手続きの複雑さは説明の一部となり、説明は安心を生む。だが安心は、硬貨が戻らないことと、記録が増えることを覆い隠す。
最後の釦
ある夜、広場の自販機は静かに設定を変えた。返すクーポンの基準が少しだけ変わった。誰も大きな声で抗議しない。日々の買い物は続き、硬貨は機械へと流れる。機械は記録を増やし、次の調整を容易にする。町の人々は、かつての自由な買い物と比べて違和感を覚えるが、それは小さな違和感の積み重ねでしかない。違和感はやがて習慣となり、習慣は説明書の一部になる。自販機は飲み物を出し、時折クーポンを返す。だが硬貨の流れは止まらず、記録は増え続ける。最後に残るのは、誰が何を買ったかを知る機械と、それを当然と受け入れる町の静けさである。
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