甘いお菓子と、消えない名簿
要旨 「もう二度としません」と言った舌の根も乾かぬうちに、新しいお菓子を配り始める。そんな光景に、私たちはただ怒りを覚える。しかし、怒って背を向けるだけでは、何も変わらない。なぜなら、その場を立ち去ったとしても、次の誰かがそのお菓子を受け取ってしまうからだ。本稿では、約束を破ることを前提とした仕組みの中で、私たちが手にするべき唯一の筆記具について考察する。 キーワード 公約の賞味期限、忘却への対抗、信用の記録、自動的な清算 魔法の杖と、空っぽの約束 あるところに、不思議な杖を持つ魔法使いがいました。その杖を一振りすれば、重い荷物は消え、誰もが欲しがる金貨が空から降ってくると彼は言います。人々は喜び、彼を広場の中心へと招き入れました。 しかし、一週間もすれば人々は気づきます。荷物は消えず、降ってきたのは金貨の形をした安っぽいお菓子に過ぎなかったことに。人々が抗議すると、魔法使いは平然と言いました。「ああ、前の呪文は少し古かったようです。今度はもっとすごい。皆さんが払っている税金を、明日からすべてゼロにする呪文を唱えましょう」 私たちはこの魔法使いを「ひどい嘘つきだ」と呼びます。そして「次はもう彼を広場に入れないようにしよう」と話し合います。それが最も正しい解決策に見えるからです。けれど、翌月になると、また別の魔法使いがやってきて、似たような、あるいはもっと甘い香りのする呪文を唱え始めます。人々はまた、淡い期待を抱いて広場に集まってしまう。この繰り返しに終わりはありません。 繰り返される広場の喜劇 なぜ、これほどまでに同じことが繰り返されるのでしょうか。それは、広場に集まる私たちの側に、ある決定的な欠落があるからです。それは「記憶の保存」という仕組みです。 広場に立つ魔法使いにとって、過去に何を言ったかは、今この瞬間の喝采を得るための材料に過ぎません。彼らにとっての言葉とは、誰かと結ぶ固い約束ではなく、魚を釣るための「餌」と同じです。一度魚が釣れてしまえば、その餌が何であったかなどは、どうでもよいことなのです。 呪文の魅力 = ...