広場に置かれた交換台

要旨

人はつながりを失ったから孤独になったのではない。つながりの意味が変わったのである。かつて多くの場所には、役に立つかどうかとは別に人を置いておく余白があった。ところが人々が自由に移動し、比較し、選び直せるようになると、その余白は少しずつ姿を消した。孤独を埋めるために新しい広場を作っても、その広場の中で人が互いを値踏みし続けるなら、そこはやがて同じ場所になる。これは広場の不足ではなく、広場の使い方の変化についての話である。

キーワード
広場、交換台、居場所、比較、選択、孤独、家族、余白、値札、つながり

駅前の新しい広場

町の中心に新しい広場ができた。

そこには木の椅子が並び、小さな喫茶店があり、誰でも自由に出入りできた。町役場は大きな看板を立てた。

「ここは人と人をつなぐ場所です」

住民たちはそれを歓迎した。最近の町では、一人で食事をする人が増えていた。休日になると部屋から出ない人も多かった。誰かと話したいのに話す相手がいない。そんな声が少しずつ聞こえるようになっていた。

だから広場は期待された。

夕方になると人が集まり、飲み物を飲みながら話をした。新しい友人ができたという者もいた。趣味の仲間を見つけたという者もいた。

誰もが、これで問題は解決に向かうと思った。

だが町の古い時計店の主人だけは、看板を見ながら首をかしげていた。

「広場は立派だが、妙なものも一緒に運び込まれている」

そう言ったが、誰も意味を聞かなかった。

見えない交換台

広場の中央には大きな机があった。

ただの机に見えた。しかし時計店の主人には別のものに見えていた。

交換台だった。

そこへ来る人々は、会話をしながら静かに何かを並べていた。

  • どんな仕事をしているか
  • どんな趣味を持っているか
  • どれだけ面白い話ができるか
  • どれだけ役に立つか

もちろん誰も露骨には言わない。

だが机の上には見えない値札が増えていった。

ある若者は人脈を探しに来た。ある者は恋人を探しに来た。ある者は商売相手を探しに来た。ある者は退屈を埋める相手を探しに来た。

広場は賑わっていた。

しかし時計店の主人は知っていた。

賑わいと居場所は同じ意味ではない。

選べる相手の増加 = 出会いの増加 + 比較の増加

比較は静かに入り込む。

誰かと話している最中にも、もっと話の合う人がいるかもしれないと思う。誰かと仲良くなっても、もっと都合のよい相手がいるかもしれないと思う。

その考えは特別な人だけのものではない。

交換台の前に立つ者は、皆それを持つ。

選べるということは、選ばれる側にもなるということだからだ。

消えた長椅子

町には昔、一つの長椅子があった。

川の近くに置かれた古い木の長椅子だった。

そこへ座るのに資格はいらなかった。

面白い話も必要なかった。

誰かの役に立つ証明も必要なかった。

ただ座っていればよかった。

年寄りもいた。失敗した人もいた。何も持たない人もいた。

彼らは歓迎されていたわけではない。

しかし追い出されてもいなかった。

そこには妙な余白があった。

存在するだけで済む空間だった。

ところが長椅子はいつの間にかなくなった。

理由は単純だった。

誰も必要性を説明できなかったからである。

新しい施設は用途が説明できた。

売上を生む店は説明できた。

交流を促進する広場も説明できた。

だが、ただ人が座っているだけの長椅子は説明できなかった。

だから撤去された。

町は合理的になった。

その結果、説明できない余白だけが失われた。

不思議なことに、その頃から一人でいる人は増え始めた。

最後に残った値札

数年後、広場はさらに大きくなった。

交流会が開かれた。

集まりが開かれた。

人と人を結ぶための催しも増えた。

だが来なくなった者も少なくなかった。

理由を聞かれると、皆似たような返事をした。

「なんとなく疲れる」

それだけだった。

誰も広場を嫌ってはいなかった。

誰も制度に反対してはいなかった。

ただ机の上に並ぶ値札を見ることに疲れていた。

そして自分の胸にも値札が下がっていることに疲れていた。

人の数の増加 - 存在の余白 = 孤独の再生

ある冬の日、時計店の主人が店を閉めた。

最後に広場の前を通ったとき、中央の机は以前よりずっと大きくなっていた。

その周囲には多くの人が集まっていた。

笑い声も聞こえた。

話し声も聞こえた。

賑やかな光景だった。

主人は少し離れた場所を見た。

かつて長椅子があった場所である。

そこには何もなかった。

町は人をつなぐ方法を発明したが、人を置いておく場所だけは失っていた。

コメント

このブログの人気の投稿

言葉が場を作る瞬間の錯覚

予定表の空白が怖い人間