消えた石を運ぶ町

要旨

ある町では、広場の石を皆で公平に運ぶ仕組みが作られた。最初は不満の解消として歓迎されたが、やがて石は消えたように見え始める。実際には消えていない。運ぶ人と場所が変わっただけだった。しかも石を運ぶ仕事は長く続くうちに風景へ溶け込み、誰もそれを仕事として数えなくなる。問題が解決されたのではない。問題として見られなくなったのである。その静かな変化を、一つの町の出来事として描く。

キーワード
石運び、広場、見えない重さ、慣れ、正常化、町の記録

広場から消えた不満

町の中央には古い広場があった。

広場には大小さまざまな石が積まれていた。何のためにあるのかを知る者は少なかったが、昔からそうだったので誰も気にしなかった。

問題は、その石を運ぶ役目だった。

昔は決まった家々が運んでいた。重い石も軽い石も、雨の日も暑い日も同じ顔ぶれだった。町ではそれを不公平だと言う声が増えた。

そこで集会が開かれた。

石は皆の広場にあるのだから、皆で運ぶべきだという話になった。

反対する者は少なかった。広場は皆のものだし、不満も確かに存在していたからである。

新しい仕組みは歓迎された。

運ぶ番は順番で決められた。誰か一人だけが重さを抱えることはなくなった。

町の人々は満足した。

長く続いていた偏りが正されたように見えたからである。

しばらくすると、誰も石の話をしなくなった。

それは良い兆候だと考えられた。

不満が消えたのだから、問題も消えたのだろうと。

不満の消失 ≠ 重さの消失

帳面に載らない荷物

新しい仕組みが始まって数年が過ぎた。

町役場では毎年の記録をまとめていた。

そこには多くの数字が並んでいた。参加した人数、順番の回数、広場の利用者。どれも整然としていた。

しかし一人の記録係だけは奇妙なことに気づいていた。

石の数が減っていないのである。

もちろん石が増えたわけでもない。減ったわけでもない。

ただ場所だけが変わり続けていた。

広場から倉庫へ。倉庫から小屋へ。小屋から川沿いへ。

誰かが運び、別の誰かが受け取り、また別の誰かが整理する。

仕事は細かく分けられていた。

そのため一人ひとりが感じる重さは昔より小さかった。

ところが、記録係は別のことも見つけた。

石を運ぶための準備をする人がいた。

順番表を書く人がいた。

忘れた人に知らせる人がいた。

石の置き場を整える人がいた。

運搬中の行き違いを調べる人もいた。

昔は存在しなかった仕事だった。

だが、それらは石運びとして数えられていなかった。

帳面には現れなかった。

人々は石の重さだけを見ていた。

石を動かすために増えた手間は見ていなかった。

いや、正確には見えなくなっていた。

なぜなら、それはもう日常だったからである。

毎朝開く戸のように、毎晩灯す明かりのように、そこにあることが当然になっていた。

石が風景になる日

さらに年月が流れた。

町の子どもたちは、生まれたときから新しい仕組みしか知らなかった。

彼らにとって石運びの準備は仕事ではなかった。

広場の掲示板を更新することも、順番を確認することも、石の置き場を見回ることも、町の風景だった。

風景には名前がつかない。

空気を吸うたびに、その回数を数えないのと同じである。

町の人々は言った。

「昔よりずっと良くなった」

それは事実だった。

昔の不満は減っていた。

だが同時に、別の事実も存在していた。

石は相変わらず運ばれていた。

そして石を運ぶために必要な多くの動きも続いていた。

ただし、それらはもう重さとして認識されていなかった。

重さではなく風景だった。

風景になったものは疑われない。

誰も空を見上げて、なぜ空があるのかとは尋ねない。

同じように、誰も石運びそのものを見なくなった。

町が観察していたのは不満だけだった。

不満が減れば成功。

不満が聞こえなければ成功。

そうした記録だけが残された。

石の存在そのものは、評価の外へ押し出されていた。

見慣れた重さ = 存在しない重さとして扱われる

最後の石の行方

ある冬の日、記録係は引退することになった。

最後の仕事として、古い帳面を整理していた。

そこで彼は最初の記録を見つけた。

まだ広場に石が積まれていた頃の記録だった。

そこには単純な一文があった。

「石を運ぶ者が少数に偏っている」

記録係は笑った。

今の帳面には、その言葉はなかったからである。

代わりに何が書かれているのか。

何も書かれていなかった。

石運びについての欄そのものが消えていた。

問題がなくなったからではない。

問題として記録されなくなったからである。

彼は窓から広場を見た。

子どもたちが走り回っていた。

その脇で数人の大人が掲示板を更新していた。

別の誰かが倉庫の鍵を確認していた。

さらに別の誰かが石の置き場を整えていた。

皆、当たり前の顔をしていた。

誰も石を運んでいるとは思っていなかった。

だが記録係には見えていた。

広場から石は消えていない。

ただ町じゅうに散らばり、風景のふりをしているだけだった。

コメント

このブログの人気の投稿

仮設住宅の町と消えた家主たち

被害が硬貨になる町

感情の手紙と確かめられぬ事実