風車小屋の配属表
丘の上の風車小屋では、誰でも同じ門から入れるようになった。町の人々はそれを進歩と呼んだ。しかし風車を回す仕事は消えず、羽根の重さも変わらなかった。やがて帳簿には別の数字が並び始める。門は一つになったが、仕事は静かに分かれていった。誰かが担えなかった重みは、消えたのではなく別の肩へ移ったのである。
- キーワード
- 風車、配属表、重み、肩代わり、帳簿、役割、再分配
丘の上の新しい看板
丘の上に古い風車小屋があった。町の粉ひきはみなそこで働いた。仕事は単純だった。大きな羽根を調整し、固く締まった留め具を回し、止まった歯車を動かす。毎日同じことの繰り返しだった。
ある年、小屋の入口に新しい看板が掲げられた。
そこには誰でも歓迎とだけ書かれていた。
町の人々は喜んだ。以前は風車の仕事に向かう者と、事務机に向かう者が何となく分かれていたからだ。看板はその境目を消したように見えた。
若い者たちが集まった。背の高い者もいた。小柄な者もいた。力自慢もいた。帳簿が得意な者もいた。皆が同じ門をくぐった。
最初の数週間、小屋の主人は満足していた。町役場も満足していた。見学に来た人々も満足していた。
看板は正しく働いているように見えたからである。
静かに増える赤い印
だが風車の羽根は看板を読まなかった。
固い留め具も看板を読まなかった。
重い歯車もまた看板を読まなかった。
春の終わり頃、一人の新人が手を痛めた。主人は休ませた。町医者も呼んだ。数日後には別の新人が腕を痛めた。さらにその次の月にも似たことが起きた。
主人は困った。痛みを訴えた者を責めることはできない。痛みは帳簿の数字ではなく、本人の体に起きている出来事だからだ。
そこで主人は配属表を書き換えた。
羽根の調整はいつも同じ数人が担当するようになった。帳簿整理や伝票確認は別の人々が担当するようになった。
誰も命令されたわけではない。誰も差別を口にしたわけでもない。
ただ配属表が変わった。
町の人々の多くは、その変化に気付かなかった。
入口の看板は以前と同じだったからである。
消えなかった重み
夏になると、不思議なことが起きた。
羽根を担当する者たちは忙しくなった。故障が起きれば呼ばれた。留め具が固ければ呼ばれた。雨の日も風の日も呼ばれた。
一方で別の部屋では、書類が積み上がっていた。そこでも仕事はあった。だが風車が止まれば町全体が困るため、主人の視線はどうしても羽根の側へ向かった。
やがて羽根担当の一人が主人に尋ねた。
なぜ毎回自分たちなのか、と。
主人は答えに詰まった。
誰かを特別扱いしたいわけではない。だが以前に起きた出来事も忘れられない。風車を止めるわけにもいかない。
主人は配属表を見つめた。
そこには公平も不公平も書かれていなかった。ただ名前だけが並んでいた。
しかし名前の並び方は、少しずつ固定されていた。
重い仕事を任される者は、前回もその前も同じだった。
任されない者もまた同じだった。
看板は皆に同じ門を与えた。しかし門をくぐった後の流れまでは決めなかった。
決めたのは風車だった。
そして故障の記録だった。
さらに主人の記憶だった。
風車が教えた計算
秋の終わり、町役場の役人が視察に来た。
入口の看板を見てうなずいた。
立派な看板ですねと言った。
主人もうなずいた。
嘘ではなかった。
看板は確かに立派だった。
その夜、主人は古い帳簿を開いた。
帳簿には羽根の修理記録が残っていた。誰が休み、誰が代わりに働き、誰が遅くまで残ったかも記されていた。
数字を追ううちに、主人は奇妙なことに気付いた。
痛みを訴えた者の名前は帳簿に残る。
しかし肩代わりした者の疲れは帳簿に残らない。
風車は止まらなかったからである。
止まらなかったという事実だけが残る。
主人は帳簿を閉じた。
翌朝も看板は入口に立っていた。
町の人々はその看板を見て安心した。
そして風車は回り続けた。
ただ一つだけ変わっていたことがある。
それは、羽根の重さではなかった。
その重さが落ちる先だった。
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