SNSの「友達箱」

要旨

ポケットに入る小さな箱を想像せよ。そこに名札を差し込むだけで「友達」が増える。数は増えるが、箱の中身は薄くなる。見えるものと確かさの間に生じるずれを、静かに描く短い論考である。

キーワード
フレンドリスト、希薄化、可視化、責任

箱と名札

郵便受けのような箱がある。誰でも名札を差し込める。差し込むと箱は賑やかになる。名札は光る。数が多いほど箱は立派に見える。人は箱の前で立ち止まり、名札の数を眺める。数が多ければ安心する。数が少なければ不安になる。箱の中身を確かめることは面倒だ。だから人は名札の数だけを信じる。

名札の軽さ

名札は薄い紙だ。紙は簡単に作れる。誰でも差し込める。差し込む行為は負担がない。だが、紙は関係を作らない。紙は約束をしない。紙は声を出さない。箱の前で人は紙を数えるだけで、関係が育っていると錯覚する。錯覚は静かに広がる。やがて箱の中は紙だらけになる。紙の山は見た目を満たすが、触れても冷たい。

見える世界の仕組み

箱は誰かが作った。作った者は箱を光らせる方法を知っている。光らせると人は箱を開ける回数が増える。開ける回数が増えると、作った者はさらに光らせる。光は循環する。循環の中で、箱の外側にいる人々は得をする。箱の内側にいる人々は手を伸ばすだけで疲れる。疲れは目に見えない。疲れは静かに溜まる。

注意の外部化 = 利益の集中 ÷ 責任の分散

最後の封筒

ある日、箱の前に小さな封筒が落ちていた。封筒には「対面で会ったことのない人からの手紙」と書かれていた。中身は空白の紙が一枚。差出人は不明。誰かが冗談で入れたのかもしれない。誰かが試験をしたのかもしれない。人々はそれを見て笑った。笑いはすぐに消えた。次の日、封筒は増えていた。空白の紙が増えていた。人は数を数えた。数は増えた。誰も中身を確かめなかった。誰も差出人を問いたださなかった。箱はますます立派に見えた。

四つの場面を順に見れば、構図は明らかだ。名札は関係を代替する。代替は見た目を満たす。満たされた見た目は安心を生む。安心は行動を鈍らせる。行動が鈍ると、箱の外側にいる者が静かに仕組みを整える。仕組みはさらに名札を増やす仕掛けを用意する。結果として、箱は名札で満ち、実際の声は薄くなる。声が薄くなると、誰が何を言ったか、誰が責を負うのかが曖昧になる。曖昧さは問題を見えなくする。見えなくなった問題は、やがて誰かの都合の良い形で処理される。

日常の小さな出来事に置き換えれば、次のようになる。誕生日の通知が来る。お祝いの言葉が並ぶ。だが、実際に会って祝う人は少ない。困ったときに手を差し伸べる人はさらに少ない。数はある。助けはない。数と助けの乖離は、箱の性質を示す。箱は数を誇示することで、実際の関係の代わりを果たすふりをする。人はそのふりを信じる。

最後に、箱の前に立つ者は選択を迫られる。名札を増やすか、箱の中身を確かめるか。増やすことは簡単だ。確かめることは手間だ。多くは増やす。増やすことは見た目を守る。見た目を守ることは安心を保つ。安心は行動の停止を生む。停止は変化を拒む。変化を拒むと、箱はそのまま大きくなる。大きくなった箱は、やがて誰のものでもなくなる。名札だけが残る。

終わりに、封筒の一枚が風で飛んだ。誰も追わなかった。風は紙を遠くへ運んだ。紙はやがて土に混ざる。箱は静かに光り続けた。

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