誰が最後に鈴を鳴らすのか

要旨

町の店から店員が少しずつ姿を消した。代わりに客が自分で商品を読み取り、自分で会計し、自分で確認するようになった。人々は便利になったと言った。しかし消えた仕事は消滅したのではなく、静かに持ち主を変えただけだった。さらに見張る目まで薄くなると、一部の者は代金を払わずに去り、その穴はどこかで埋められる。普通に買い物をした客が、その不足分を少しずつ引き受ける。これは便利な機械の話ではない。鈴を鳴らす役目が誰に渡されたのかという話である。

キーワード
鈴、会計台、見張り番、移し替え、静かな負担、店の風景

鈴の音が聞こえなくなった日

町の中央通りには古い雑貨店があった。特別な店ではない。洗剤も売っていたし、菓子も売っていた。冬には使い捨てカイロが山のように積まれ、夏には冷たい飲み物が入口を埋めた。

その店には昔から一つの決まりがあった。客が品物を持って会計台へ行くと、店員が鈴を鳴らすのである。小さな真鍮の鈴だった。商品を受け取り、値段を確かめ、金を受け取る。鈴の音は取引が終わった印だった。

誰もその鈴を意識していなかった。あるのが当然だったからだ。

ある年、店主は新しい会計台を入れた。鈴は必要なくなった。客が自分で品物を読み取り、自分で金を払い、自分で袋へ入れる。店員は遠くから見ているだけになった。

客たちは驚いたが、すぐに慣れた。

  • 列が短くなった。
  • 急いでいる時に便利だった。
  • 店員に声をかけなくて済んだ。

町の新聞も好意的だった。時代に合った仕組みだと書いた。鈴を鳴らす手間が消えたからである。

その説明は間違っていなかった。確かに鈴を鳴らす人は減った。

だが鈴そのものは消えていなかった。

持ち主だけが変わった

ある日、常連客の老人が首をかしげた。

「昔は店員がやっていたことを、今は私がやっているな」

それだけの話だった。

誰も反論しなかった。

実際、その通りだったからである。

商品を確かめる人が必要だった。値段を確認する人も必要だった。会計を終わらせる人も必要だった。以前は店側の人間が行っていた。それが客へ移っただけだった。

だが数字の帳面には別の姿で映った。

店から見れば、会計台の向こう側にいた人間が減ったのである。

消えた仕事 = 消滅した仕事 ではなく 移された仕事

奇妙なことに、人々は移された仕事よりも、減った店員の数ばかりを見た。

なぜなら移された側は、一人ひとりに分散されていたからである。

一人の客が負担する時間はわずかだった。数十秒かもしれない。一分にも満たないかもしれない。

しかし店を利用する全員がそれを行えば、その総量は決して小さくなかった。

それでも誰も気にしなかった。

一回ごとの重さが軽かったからである。

砂を一粒ずつ運ばされても、人は山を運んでいるとは感じない。

誰も見ていない通路

しばらくすると別の変化が起きた。

店の商品が時々合わなくなったのである。

帳面の数字と棚の数字が一致しない。

最初は数え間違いだと思われた。

次は入力ミスだと思われた。

だが繰り返されるうちに理由は単純だと分かった。

払われていない商品が増えていたのである。

もちろん大半の客は普通に会計した。

しかし全員ではなかった。

店員が目の前にいる時にはためらう人間も、機械の前では別の計算をすることがあった。

菓子を一つ。

飲み物を一本。

あるいはもっと高いものを。

少しだけなら分からないだろうと考える者がいた。

不思議なのは、その利益が誰のものになるかだった。

持ち去った者の利益は持ち去った者だけのものになる。

しかし失われた分は店全体に残る。

店は不足を抱えたまま営業することになる。

不足は壁に貼り出されない。

不足は悲鳴を上げない。

ただ静かに積み重なる。

持ち去る者の得 + 全員で埋める穴 = 見えない移し替え

町の人々は気づかなかった。

いや、正確には気づきにくかった。

なぜなら穴は一人ではなく全員の足元に広がっていたからである。

最後に鈴を鳴らした人

数年後、その雑貨店は以前より静かになった。

会計台の近くに立つ店員は少なくなった。

客は慣れた手つきで商品を読み取った。

町の子供たちは、昔そこに鈴があったことさえ知らなかった。

ある夕方、一人の男が洗剤を買いに来た。

男は会計を終え、出口へ向かった。

その時、入口の隅に飾られていた古い真鍮の鈴を見つけた。

かつて会計台で使われていたものだった。

男は何となく手に取り、軽く振った。

小さな音が鳴った。

澄んだ音だった。

その瞬間、男は妙なことに気づいた。

昔は店員がその音を鳴らしていた。

今は自分が会計を終えた。

自分が商品の値段を確かめた。

自分が金を払った。

自分が袋へ入れた。

そして最後に、自分が鈴まで鳴らした。

店員の仕事が消えたのではなかった。

鈴を持つ人間が変わっただけだったのである。

男は鈴を元の場所へ戻した。

すると入口の自動ドアが開き、新しい客が入ってきた。

その客は会計台へ向かった。

誰も気づかなかったが、その手には見えない鈴が渡されていた。

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